ライターは出典をちゃんと提示する。話はそれからだ

私は前職、あるWebコンサルティング会社で、コンテンツの編集ディレクターとして働いていました。

そこでは多くの外部ライターを抱えていましたが、社内で一番問題視されるライターというのは、文章が下手なライターではありませんでした。文章は正直、校正の方が頑張ればなんとかなりますから。

一番問題視されていたのは、出典を示さないライターでした。

主張や結論、数字、データ、それらの根拠となる出典を一切提示しない。
言うまでもなく、これは論外です。ライターは、情報の出典を必ず記載しなければいけません。

セールスライターである以上、自分がコピーに使った情報の出所は明確にしておかなければならない。例えば、不妊治療クリニックのパンフレットを書いたとしよう。そしてその中に、「米国では6組に1組のカップルが不妊です」 と書いたとしたら、その出典を明らかにしなければならない。

『セールスライティング・ハンドブック-「売れる」コピーの書き方から仕事のとり方まで』 ロバート・W・ブライ (著), 鬼塚 俊宏 (監修), 南沢 篤花 (翻訳) 2011年初版 翔泳社

出典を明らかにすることは、執筆の最低限の作法ですが、どうもそのあたりの作法を心得ていない(あるいは軽視する)ライターが多かった印象です。

例えばある時、ライターが「Webエンジニアは年収1000万円を稼げる職種です」 という主張を原稿に書いてきました。しかし、その根拠となる出典がありませんでした。それでは事実確認のしようがないので、出典の提示を求めると、適当なコラム記事のURLが送られてきました。

たしかにそこには「Webエンジニアは年収1000万円可能」 的なことが書いてありましたが、その記事自体、根拠となる出典を何も示しておらず、信憑性に乏しいものでした。こんなものを出典として提示されても困るわけです。検索上位の記事を適当に調べて、そこに書いてある数字から安易に引っ張ってきたのが丸わかりです。

こういう、検索上位の記事に書いてあることを切り貼りするのがライティングだと思っているSEO系ライターは特に、出典の扱いが杜撰であることが多かったです。

またある時は、「出典を明示しろなんて指示は受けていない」 という反論を受けたこともありますが、指示されなければ出典の1つも提示できないようでは、ライターとしての適性はないといえるでしょう。出典に対する扱いや作法、態度で、ライターとしての実力や資質をある程度測れるのです。

出典元の明記が必要な理由

そもそもなぜ、出典を明示しなければいけないのか?
ちゃんとしたライターにとっては釈迦に説法かもしれませんが、いちおう、記述します。

法律で義務付けられているから(引用の場合)

Web記事やPDF資料、書籍など、他人の著作物から主張やデータ、図表などを引用した場合は、その出所の明示が著作権法で義務付けられています。

 他人の著作物を自分の著作物の中に取り込む場合,すなわち引用を行う場合,一般的には,以下の事項に注意しなければなりません。

(1)他人の著作物を引用する必然性があること。
(2)かぎ括弧をつけるなど,自分の著作物と引用部分とが区別されていること。
(3)自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(自分の著作物が主体)。
(4)出所の明示がなされていること。(第48条)

著作物が自由に使える場合 | 文化庁

引用したにも関わらず出典を明示しないのは明確に法律違反であり、また、ライターとしての信頼も失落することになります。

信頼性・利便性を担保するため

出典が明記されている記事のほうが、そうでない記事よりも信頼性や利便性が高くなります。このあたりの理論については、以下の記事に詳しく記しているので、よければご覧ください。

有益な一次情報や参考文献、有益なツールなどへのリンクが貼られていたほうが、そのコンテンツの利便性は高くなりますし、信頼できる有用な情報源であるとのユーザーの認識も強まります。Googleとしても、そのような「ユーザーフレンドリー」 なコンテンツを高く評価するのは自明の理です。

外部サイトに発リンクすることで自サイトのSEOパワーが流出? 今だにリンクジュース的妄想に支配される人々

出典が明示されていれば「ここは信頼できる情報を扱っている」 との認識がユーザーに生まれます。主張に対するバックアップにもなり、納得感も上がるでしょう。また、出典元のページへ発リンクしてあれば、ユーザーは情報ソースに素早くアクセスでき、記事の利便性も上がります。

事実確認の手間を軽減するため

クライアントは大抵の場合、ライターから納品された記事の事実確認(記載している内容が事実と合っているのか?) を行います。このとき、出典や参照先の記載がなければ、事実確認にかなり手間取ります。数値やデータ、法律などのテキストをいちいちコピーしてWeb検索し、内容の正誤をチェックするのは、膨大な時間がかかるものです。

その点、引用や数値、データなど、事実確認が必要な箇所にピンポイントで出典先や参照先を明記しておけば、クライアントの事実確認の手間は大幅に軽減されます。

なお、構成案をライター自ら作成する場合は、以下のように、構成案の時点で主張やデータ、数字の根拠となる出典を明記することをおすすめします。

<構成案サンプル(一部)>

1. 詳細な仕事内容を伝えることの重要性

・仕事内容の詳細が欠如した求人が引き起こす問題(応募が来ない、すぐに離職する)を、以下の出典を交えながら指摘。

“ハローワークで求職者の方々からよくご質問いただく項目のーつが「仕事の内容」欄です。職種名や仕事内容、必要な資格・経験などが具体的に記入・入力されていることで、求職者の方々の疑問やとまどいを軽減し、応募者が増えることにつながります。また、正確で詳細な記入・入力は入社後の定着率にも影響します。

出典:https://www.hellowork.mhlw.go.jp/enterprise/ent_inputmethod04.html

2. 転職希望者は仕事内容の詳細を求めている

・d’s JOURNAL編集部の調査結果を紹介。

・求人サイトや求人票で重点的にチェックする項目を調査したところ、仕事内容(詳細)は給与に次いで2番目に位置していた。

・また、最終的な応募の決め手は何か? という調査では、仕事内容(詳細)が1位であった。

出典:https://www.dodadsj.com/content/200212_job-board/

・厚生労働省の資料でも、求人票で重視される項目No.1は「仕事内容」とある。

出典:https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-hellowork/content/contents/000822897.pdf

このような構成案であれば、どんなクライアントに出しても文句を言われることはまずありません。「丁寧にやってくれている」 「作法をちゃんと理解したライターだ」 という印象を与えられるからです。

逆に、以下のように「参照サイト」 と称してURLをまとめて記載するのは避けたほうがいいでしょう。

<参照サイト>
https://www.●●●●●●●●●●●●●.com

https://www.●●●●●●●●●●●●●.com/●●●●/

https://www.●●●●●●●●●●●.com

https://www.●●●●●●●●●.com

https://www.●●●●●●●●●●●●●.com/●●●/

https://www.●●●●●●●●●●●.com

どの箇所に対しての根拠なのかが全くわかないからです。極めて不親切な記載方法だといえます。それに、「え、この参照サイトから情報パクって書くってこと? コピペ記事を提出するつもりか?」 という不安と不信をクライアントに与えかねません。

出典と参照の違いと使い分け

出典と参照の違いについて、簡単にご説明します。

「出典」 は、情報の引用元を明確に示すことを指します。これは、ライターが他の情報源から取得した情報を正確に明示する手段です。出典を示すことで、ユーザーは提供された情報の出所を把握し、必要な場合には、元の情報源にアクセスできるようになります。出典は著作権の尊重と情報の信頼性を確保するために重要です。

一方で「参照」 は、引用したわけではないけれど、その情報源の内容を基に主張や論理を組み立てたり、自分なりに内容を噛み砕いて説明した際に、「ここの情報を参考にしました」 と示すためのものです。要は参考文献みたいな感じです。参照先が明示されることで、ライターがどのような情報源を参考にしたかをユーザーが把握するのに役立ちます。
引用文に対する出典と違い、明示する義務はありませんが、情報を参考にさせていただいたことへのお礼として、参照先を明示しておくのが筋かと思います。

クライアントから評価される、出典を記載する際のポイント

以下のポイントも押さえておけば、より「プロの仕事」 を印象付けることができます。

出典元の権威性・信頼性を意識する

一般的に、個人ブログやアフィリエイトサイトなどは、信頼性が高いとは言えません。
企業のメディアもそうです。事実誤認や歪曲された情報が掲載されていることが非常に多いので、出典として安易に使うのは避けたほうがいいでしょう。

例えば、確定申告における所得税の税率について書いたとします。その出典として、一企業のメディアや個人ブログを採用するのは良くない、ということです。権威性・信頼性が高い国税庁のサイトを出典元としなければいけません。

もちろん「こんな視点もあるようです」 という形での引用であれば、一企業のメディアや個人ブログを出典として取り上げるのは構いません。私もよくやっています。ただ、事実の正確性と信憑性が求められる場面では、必ず、権威性・信頼性の高い情報源を出典としてください。国や地方公共団体、研究機関などです。

あとは商品・サービスに関する情報は、公式サイトをちゃんと見ることです。商品のスペックや値段の記述に対する出典として、アフィリエイトサイトを提示してくるライターもいましたが、そんなものは出典として認められません。情報が古くなっている可能性がありますし、そもそも間違っていることもしばしばだからです。

こういう杜撰な対応は本当にクライアントを怒らせるので、やめたほうがいいでしょう。一次情報である公式サイトを当たり、ちゃんとした情報を調べて、そこを出典として記載しなければいけません。

大ボリュームのPDFはページ番号を記載する

ページ数が膨大なPDF資料を出典や参照として記載する場合、該当するページ番号も記載します。
以下のような申し送りを、Wordのコメントで残しておくと親切です。

参照先:https://www.●●●●●●●●●●●●●.com/●●●/pdf/
※P124を参照

数百ページもある資料の中から、該当箇所を見つけ出すのはかなりの手間です。「どこにあんだよ・・・ページ番号くらい書いとけよ・・・」 というのがクライアントの本音であり、「使えないライター」 という評価が確定します。次の発注は期待できないでしょう。

こういう細かい配慮が、信頼と評価につながっていくのです。

書籍の場合は該当箇所の写真を添付

書籍から引用した場合は、該当箇所のページを写真で撮って、その画像ファイルを原稿と一緒に送ります。

その際は、現行の該当箇所に以下のようにコメントすると親切です。

引用元:書籍名を記す
※納品ファイルに同封している「image111.png」 に引用箇所が載っています。ご確認お願いします。

なお、書籍から引用した場合の出典の記載方法ですが、以下の情報をすべて記載する必要があります(書籍名だけでは不完全です)。

  • 発行年
  • 出版社名
  • 書籍名
  • 著者(監訳者や訳者も)

まとめ

出典の扱い方一つで、良いライターなのか、ダメなライターなのか、それがハッキリとわかってしまいます。今回論じた内容は本当に基本中の基本の作法ですが、こういう基本的な作法すらままならないライターが大多数です。そのような状況ですから、出典を丁寧に記載するライターは、それだけで目立ちますし、重宝されます。